祖父・湯木貞一と神戸

今年の桜は開花が遅く、楽しめる期間も長かったように思います。桜は散る姿も美しいので、卒業シーズンのお別れの寂しい気持ちを代弁してくれるようですが、やはり入学・入園や就職など、新しい生活のスタートを切る気持ちに華やかさを添えてくれますね。桜の開花と同じく、更新が遅くなり申し訳ございません。

更新が遅くなったのは、祖父のお話をさせていただく機会があり、それに向けて準備に追われておりました。
私の祖父・故湯木貞一は吉兆の創業者でありますが、生まれ育ったのは、神戸の花隈であります。神戸でもご存知の方は殆どいらっしゃらないので、祖父と神戸の係わりをお話させていただきました。


祖父は実家の「中現長」という店で、吉兆を開業するまで修業しておりました。元々料理が好きで料理修業を始めた訳ではなく、本人は進学希望をしていたのですが、父親から跡継ぎに指名されて15歳で料理修業を始めています。
嫌々始めた料理修業ですが、どうせ料理人にならなければいけないのであれば、一流の料理人になろうと決意し一生懸命励み、24歳位までに一流の腕は手に入れたそうです。
しかし、料理の何を捉えて自分の仕事とするのか、料理屋は大根や人参にただ手を加えているだけではないのか、と思い悩んでおりました。
そういった時にお茶事の料理と出会いました。

晴子若女将のつれづれ話 201904 お茶の料理には厳然とした季節があり、お茶の料理と自分の学んできた料理を融合させて新しい日本料理を作り出したいと思ったそうです。
日本には四季があり、春夏秋冬の風情を料理に盛り込むこと、日本の文化や風習を料理で表現したいと思ったそうです。(ちなみに祖父がそういった想いに至った大正の時代は、料理には自然な魚や野菜の旬があっただけだったそうです。)

祖父は、桜の季節には料理の中にぼんぼりを立て桜が一番美しく見える趣向を、今からの季節には八つ橋の趣向で菖蒲が咲いている様を表現しております。
端午の節句には細魚を菖蒲で挟んで刀のように切り、菖蒲刀を表現して、勝負(しょうぶ)に勝つ!(端午の節句なので)という意味でも菖蒲(しょうぶ)なのですが、光っている細魚を刀に見立てた所が面白いなぁと思います。

そういった細部に至る所まで祖父のアイデアが詰まっているのですが、祖父は何を見ても聞いても、「これは料理に取り入れることはできないか」「何か料理で表現できることはないか」と考えていたそうです。

日本の文化を料理で表現しようと試行錯誤して生み出したものを、現在、私共が受け継いでおります。現代版に更新している部分もありますが、新しいもの好きだった祖父はそれも良しと認めてくれるに違いないと思います。


また、西洋料理自体にそこまで興味はなかったそうですが、西洋の材料には大きな関心を寄せており、戦後すぐ位から、スモークサーモンやフォアグラ、牛肉なども取り入れています。献立に牛肉が入るのは吉兆の大きな特徴です。とてもアイデア豊富で柔軟な思考は、神戸で生まれ育ったことが大きな要因だったような気がしてなりません。
国際色豊かな神戸というハイカラな土地が、祖父の思考のベースを作り、色々なアイデアの基礎になっているのだと思います。京都と大阪の料理のいい所を合わせた料理が吉兆の料理、と本人が話していたことからも、神戸人らしいなぁと思います。


あくまでも神戸生まれの孫の私見ということで、祖父と神戸の係わりをご紹介させていただきました。
まだまだ話は尽きませんが、もしお聞きになりたい方がいらっしゃいましたら是非、お店にてお料理をお召し上がりの間、(いくらでも)お話させていただきます!

2019年4月20日
神戸吉兆 若女将 平野晴子