第六回
寺尾 妙子
(てらお たえこ)
ライター

 

感じる和食

 骨董好きの知人に聞いた話だが、彼の仲間で茶碗を買い求める際、必ず自分の股間 に押し当てて感触を楽しむ人がいるという。周りが頼むから止めてくれないかとク レームを付けると、分かったと言って今度は胸に押し当てたりしているのだが、ふと 目を離すともういけない。またしても茶碗が股間に戻っているというのである。ま あ、これは極端な例だけど、触れることを前提とした和の器観にエロティシズムが含 まれるのは自然だと思う。

 人がこの世に生まれて初めて触れる器、それが母親の体だ。自らが十月十日入って いた体から出て、そこから乳をもらう。温かくて柔らかい甘い香りの生きた器。さら には自分を抱きかかえ、支え守り、安らぎを与えてくれるという究極の癒し系器であ る。日本人はこの器における原体験を素直に食生活に生かしているように思う。とい うのも、お茶やお酒など、飲み物を除いて食事の際に手や口が直接器に触れるような 食べ方をするのは和食に際立った特徴だからだ。つまり小皿を手にとったり、お椀に 直接唇を付けて汁を飲むのはほぼ日本人だけなのだ。よく「料理は五感を使って味わ うもの」と言われるが、日本人は料理だけでなく器からも快楽を得ようとする。だか ら、絵柄や形が美しいだけでなく、手馴染みと口当たりがいい器、手と唇が気持ちよ くなるのがいい器となる。

 日本の食卓に欠かせないご飯とみそ汁。両方とも椀を包む掌からご飯やみそ汁のぬ くもりを感じながら味わうものである。鼻で匂いをかぎ、口で味わうだけでなく、手 で感じる温かさがあるからこそ、日本のソウルフードになれたような気がしてならな い。